なぜ「水素」は「がん」に有効なのか
2024年9月27日
※この記事は各研究機関が公式に発表している論文等のデータを基に配信しております。詳しくは「引用文献」をご参照ください。
水素ガス療法に関して興味を持たれた方は、検索すると「水素」が「がん」に効く!といったような情報を必ず目にすると思います。
「本当なのかな?」「何を根拠に?」といった思いを抱かれる方も少なくないと思います。
そこで、今回は、なぜ「水素」と「がん」が多く言及されるのかの経緯や、現在の状況についてご紹介していきたいと思います。
なぜ「水素」と「がん」が注目されたのか
水素の抗がん作用が初めての報告されたのは1975年
水素の抗がん作用については初めて報告されたのは、なんと今から約50年前の1975年。アメリカのベイラー大学ドール博士らが1880年創刊の化学学術雑誌『Science』に投稿した「高圧水素療法:がん治療法の可能性[1]」という論文です。
論文の中では、8気圧という高圧の水素ガスで2週間皮膚がんのマウスを治療すると腫瘍が縮小した、という画期的なものでした。
水素は本当にがんに効くのか?
おそらく研究者の方も、そう簡単に水素のがんに対する有効性を受け入れたわけではないと思います。その後、水素のがんに対する有効性は多方面から調べられ、2021年当時で合計23報もの論文で発表されてました。
以下は、その詳細です。
- 培養がん細胞に対する有効性を調べた論文(6報)
- 実験動物にヒトがん細胞または動物由来のがん細胞を移植したモデルに対する有効性を調べた論文(5報)
- 実験動物に紫外線または放射線を照射して誘発させたモデルに対する有効性を調べた論文(2報)
- 実験動物に高脂肪食を与えて非アルコール性脂肪性肝炎を誘発させ、肝臓がんへの進展に対する有効性を調べた論文(1報)
- がんの増殖過程には血管新生を伴うことより、培養細胞の血管新生に及ぼす有効性を評価した論文(1報)
こうした研究が進んでいく中で、研究者の間でも「水素」が「がん」に対して効果があることは事実である、といった認識が深まっていったものと思われます。
ヒトに対する水素の臨床実験が進む
こうした認識の中、ヒトのがんに対する水素の有効性は合計8報の論文で報告されています。
その中で特筆すべきは、ステージ3・4の82人の患者に対する水素吸入療法を1日当たり3時間以上、3ヵ月以上継続して行ったChenらの論文[2]です。この論文では、34%の患者は水素ガス吸入のみ、残りの66%の患者は水素ガス吸入の他に少量の抗がん剤数種を補助的に使用しました。
水素吸入を初めて4週間後、患者らは倦怠感や不眠症、食欲不振、痛みなどのQOL(生活の質)が改善したと41.5%の患者で確認。水素吸入後21~80日で完全寛解と部分寛解が現れ、全体の病状制御率は57.5%も確認。
結果、「水素吸入はがん患者のQOLを向上させ、がんの進行を抑制することができる治療法である」と結論づけました。
なぜ「水素」は「がん」に有効か?[3]
なぜ「がん」は発生する?
ヒトの身体は約37兆個の細胞で構成、体内では1日当たり約1兆個の細胞が死に、約1兆個の細胞が新しく生まれています。正常な細胞の遺伝子に様々な要因により数個の変異(突然変異)が生じてがん細胞に進展します。
通常の場合、がん抑制遺伝子の異常で生まれたがん細胞の多くは体内の免疫システムにより排除されますが、加齢や生活習慣の悪化により体内の免疫システムの働きが不十分であると、がん細胞が増殖します。
変異を起こす「主犯格」は悪玉活性酸素のヒドロキシルラジカル
ヒトを含めた動物は、大量の酸素を消費して細胞内のミトコンドリアで生命のエネルギーを産出しています。
エネルギー産出の副産物として2~3%の活性酸素種が体内で生産されつづけています。活性酸素種には、スーパーオキサイド、過酸化水素、一重項酸素およびヒドロキシルラジカルの4つがありますが、最も酸化力が強く「悪玉活性酸素」と呼ばれるものはヒドロキシルラジカルです。ヒドロキシルラジカルは脂質、タンパク質、DNAなどを酸化して障害を起こします。
水素はヒドロキシルラジカルを無毒化し水に変換
水素はこの核内で生成されたヒドロキシルラジカルを消去して無毒化し水に変換します。発がんの原因となる遺伝子変異を防御することでがん細胞の出現を抑制します。
さらに、これは水素のヒドロキシルラジカルに与える直接作用のみを言及しているのにすぎず、ほかにも水素の遺伝子発現を介した抗炎症作用、抗酸化作用、細胞致死作用などの間接作用も無視することはできません。
図1. 水素が抗がん作用を示すメカニズムの可能性[引用元: [3]]
こうして、多角的に水素は抗がん作用を発揮すると報告されています。
なぜ「水素は効果ない」という記事が多い?
「水素」は即効性のある薬のようなものではない
酸化ストレスが高い状態が続くと、DNAをはじめとする体を構成するあらゆるタンパク質、脂質、糖質が酸化し、それを原因とするがんや糖尿病などの生活習慣病、動脈硬化、アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳の病気、うつ病などの精神疾患や多くの疾病が関連していきます。
日常的に体内の水素濃度を保ち酸化ストレスを未然に防いでいくことで、はじめて健康への水素の効果が実感されるといえます。
より詳しくは「水素吸入器をおすすめする理由~体のメカニズムに合わせた水素摂取の考え方[6]」をご参照ください。
「水素ガス吸入療法」先進医療Bの取り下げ
2016年に先進医療Bに指定された「水素ガス吸入療法」は、慶應義塾大学医学部からの申請を受け厚生労働省が効果と安全性を期待し世界に先駆けて認証しましたが、その後コロナウイルス感染症拡大の影響により臨床試験の予定症例数を大きく下回るため中止基準に該当すると判断され、臨床治験が中止、2022年に「取り下げる」といった判断がなされました。
「水素ガス吸入療法」についての先進医療認定取り下げは、水素の安全性や効果が否定されたということではありません。
追って2023年に提出された臨床治験の結果報告レポートは「水素吸入療法が院外心停止患者の救命および予後の改善に効果[4]」と題され、「効果」と断言するに至っており、水素の効果に対する検証は期待されながら今なお着実に進められています。
結論
水素の健康や美容に関する情報が正しく理解されていないことに、目に留まる「効果ない」という情報が出回っていることが現実です。
東京歯科大学市川総合病院救急科の医師であり、慶應義塾大学水素ガス治療開発センターの教授である鈴木 昌 氏は「創薬のプロセスでは,水素吸入療法は Devil river(魔の川)に溺れることなく臨床応用可能であることが示されたが、これを治療法として確立するためには、エビデンスレベルの高い臨床試験や治験が求められることになる。ここに至るには、資金やリソース不足のために臨床試験を行うことができなくなるという Death valley(死の谷)が横たわる。創薬のための臨床試験や治験は近年、その規制が強まり、ますますハードルが高くなっており、資金を含めた資源の乏しいアカデミアの研究者にとっては、まさに水を持たずに砂漠に立たされた状態になる。」と述べ、皮肉交じりに水素吸入が療法として認証されるのに進みづらい現実について説いています。[5]
水素は理想的な医薬品になるはずである[5]
「分子状水素は無色透明無味無臭で刺激性がないので、投与する場合、患者に何ら負担を強いるものではない。また、無害であると考えられ、よく拡散するので、細胞膜を容易に超えて病態の核心的な中枢部分にまで到達することが予想される。したがって、理想的な医薬品になるはずである。分子状水素が臨床応用されるためには、まだまだ大きな障壁があり、Darwinian sea に溺れることもありうる。しかし、水素医学に触れたほとんどの研究者はその驚くべき効果の虜となり、夢のような大きな将来像を抱く。立場を超えて多くの医療関係者、薬学関係者が力を合わせてこの夢のような医薬品の上市がかなうようになることを期待している。」と語り、現在も水素療法が一般に広まるための研究を進められております。
引用文献・関連記事
[1] Dole M et al. Hyperbaric hydrogen therapy: a possible treatment for cancer. Science. 1975 Oct 10;190(4210):152-4. [2] Chen JB et al. “Real world survey” of hydrogen-controlled cancer: a follow-up report of 82 advanced cancer patients. Med Gas Res. 2019 Jul-Sep;9(3):115-121. [3] MiZ株式会社. 水素ガスは副作用のない新規な抗がん物質である. Int. J. Mol. Sci. 2021, 22(16), 8724; [4] 水素吸入療法が院外心停止患者の救命および予後の改善に効果-全国の救急医療機関で実施した臨床試験結果報告- [5] 水素ガス吸入療法の可能性 Medical Gases, 22 (1): 14-18[6] 水素吸入器をおすすめする理由~体のメカニズムに合わせた水素摂取の考え方
はじめての水素吸入ガイド
【1】濃度(%)・量(cc)の考え方
【2】吸入する時間・タイミング
【3】家庭用の水素吸入器をおすすめする理由と選び方
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